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最近読んだ本のことなど

2016年3月11日

あの日からはや五年。
あのころは毎日、被災した人々からの”私たちを忘れないで!”という悲痛な叫びが聞こえていた。
そして”私たちは決して忘れない、私たちはつながっている”という声もまた全国に満ち満ちていた。
五年を経て”忘れないで!”という声はいまだに消えることはないが”忘れない”という声はいまやすっかり小さなものになっている。
避難生活を強いられている人はいまだに17万人という。
人の心の中には「不運な人を思いやる」スペースなどほんの小さなものでしかないのか。

保育園落ちた 日本死ね!!! 一億総活躍じゃねーのかよ」
この悲痛な叫びと、激しい怒りに対して、安倍総理は一顧だにせず「議論のしようがない」と冷たく突き放した。
この冷酷な対応に憤激した待機児童を抱える母親たちの怒りが結集して炎上状態になった。
参院選への影響をおもんばかった政権は慌てて事態の収拾に右往左往している。
今の安倍さんには「改憲」以外の政治課題には関心がない、ということをはしなくも露呈してしまった。
安倍さんは本音はもちろん隠しているが、実は格差是正、貧困解消、少子化問題などにはあまり関心がない。
それは安倍さんの分配ポリシー「トリクルダウン」をみれば容易に理解できる。
ありていに言えば金持ち、大企業優先で、富める者、力のあるものをより強者にし、貧者はそのおこぼれに預かればいい、というのがその心なのだ

祖父のDNAで「憲法改正」をすることがワンイッシューで、任期中にその課題さえ成し遂げるだけの執念に憑かれているとしたら政治の私物化にほかならない。

山に登る回数を減らしたせいか本を読める時間が少し増えた。
年明けから葉室 麟を集中的に読んだ。
評判の高かった『蜩ノ記』以来久しぶりになるが『銀漢の賦』『秋月記』『花や散るらん』などで、どの作品にも安定感がある。
ただ今時の時代小説作家はさぞかし
キツイだろうな。
なにしろ山本周五郎、司馬遼太郎、藤沢周平という巨峰が聳えているので、これを超えるのは容易なことではあるまい。

C・Wニコル『アファンの森から』
ご承知の向きが多いが、黒姫高原で荒れ放題だった森をよみがえらせる活動を長く続けていて、著書も多い。
これはニコルさんの森づくりの集大成と位置づけられるだろう。

Img020_2
森の生活を綴ったものではH・D・ソローの『森の生活』がアメリカでの環境保全の先駆者としての評価から一種の聖典化している。
しかし、たった2年2ヶ月ほどの隠遁生活でどれだけのものを学んだのだろうか、と疑念を抱く向きもある。
そこにいくとニコルさんの森の再生にかける活動は本物だ。

百田尚樹さんは品格を欠く言動で好きにはなれないが、著作はつい読まされてしまう。
もちろん『永遠の0』は面白かったし、最近では『海賊とよばれた男』で胸をスカッとさせられた。
登場する快男児は出光佐三で、占領政策下でGHQや米メジャーを向こうに回して日の丸資本が縦横に暴れる姿にはつい喝采したくなる。
占領軍へ毅然として対峙した男としては白洲次郎(夫人が白洲正子)がいるが、戦後の日本男児の双璧か。

快男児といえば池井戸 潤の作品に登場する正義漢もまた溜飲が下がる啖呵を切りまくり、読み始めるととまらなくなる。
特に『空飛ぶタイヤ』や『下町ロケット』に登場する下町中小企業のオヤジが実に痛快だ。
昔からいわゆる「勧善懲悪」ものとして、小説の主要なジャンルであり、マンネリ感がないこともないが、文句なしに面白い。

男くさい本が続いたので、女性による良質の作品を二つ。

稲葉真弓 『半島へ』
毎日、奔流のように刊行される本の中から読みたい一書を見つけるのは難しことである。
新聞の書評はその意味でたいへんありがたい。
実はこれもそれで出あえた一書である。

Img010 ひとりで歯ぎしりしながら東京にしがみついていた著者は疲れはて、志摩半島へ移住する。
そこで何気ない人とのふれあいや、自然の息吹によって解き放たれていく。
そして、再びここに戻ってくるために東京へ向かう。
その一年を二十四節季にわけて詩情豊かに綴っている。
文章がうまい、やたらうまい ~だから嫉妬心もわかない。

谷川 直子 『四月はすこし冷たくて』

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詩人でもある著者についての知識は皆無であったが、やはり書評で知った。
詩が書けなくなった詩人、同級生の悪意で傷つき言葉を発することができなくなった少女。
ともに言葉を失った二人が、その言葉を取り戻す感動の物語。
その瞬間の少女の慟哭に、私も溢れる涙を自制することができなかった。

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日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

私もやはり山に行く回数と読書は反比例するようで、この1月2月は少しは本が読めました。
が、隙間時間の継続で、チビチビと本と山と両立させて行きたいと思っています。
読む順番を自分の中で付けています。
谷川直子さんって??でした。
高橋源一郎さんの元奥さんなのですね。ご紹介の本は面白そうですね。
隙間時間にいつか読んでみたいです。

投稿: のりこ | 2016年3月12日 (土) 04時40分

のりこ様
谷川さんについては全く無知だったので、あの高橋源一郎さんの元奥さんだとは知りませんでした。
かなり驚きました。
高橋さんについてはA新聞に毎週連載されている時評や、最近では『ぼくらの民主主義なんだぜ』読んでいるので、それなりに知っていたのですが・・・。
世に読まなければならない本はじつにたくさんあって、毎日、新しい本が生まれています。
その多くが生涯手に取ることがないままになってしまうことはとても大きな損失です。
山歩きには限界がありますが、読書は死ぬまで続けられると思いますので、まだまだ十分楽しめそうです。

投稿: 風花爺さん | 2016年3月12日 (土) 06時56分

ご紹介の〔半島へ〕は読んでみたくなりました。
私もここのところ時代小説に興味を持ち今澤田ふじ子を2冊ばかり読みつつあります。
ここのところ女性作家の時代物が目立ちますね。
読みたい本はきりがないのですが、私の目が追い付かなくなりました。
読書は亀の歩みのごとくですが、それでも本を手放せません。

投稿: おキヨ | 2016年3月12日 (土) 11時42分

おキヨ様
世に名作、名著とされる本は星の数ほどありますね。
読めるのはそのうちのほんの一部にしか過ぎません。
それでも読めば、読まない人にくらべ読書による愉悦の時間を自分のものにできますね。
とにかく一冊の本と、自分の居場所さえあれば、面倒な用意など何もしなくても、即座に日常から離脱できるのですから、こんな楽しみ方ができるものは他にありません。
『半島へ』はいわゆる田舎暮らしの本と違い、都会でささくれだった心身が、何もない半島での暮らしの中で角がとれて生き様子が、抑制のきいた良質の文章で綴られていて、言葉の香気に包まれていくような気分に浸れます。

投稿: 風花爺さん | 2016年3月12日 (土) 16時47分

風花さん、こんばんは

安部首相の考えは当初から見え見えなのですが、それを曲げる事、阻止出来ない現状が一番の問題ですね。三本の矢、一億総活躍などキャッチコピー倒れで、まったく内容が伴っていないです。ニコルさんですが、同じ県内に住んで居てアファンの森など話題になっていますが、入る事も禁じられています。正直に言って話題性はありますが、個人的な趣味だと思っています。


投稿: 岳 | 2016年3月12日 (土) 18時06分

岳様
安倍さんも国を率いるリーダーとしてほんとうは大変な毎日なんだろうと思います。
その割に大企業のトップにくらべたら年収は格段に低いですね。
報酬以外の収入もあるんでしょうが・・・・。
パフォーンスが派手すぎて、言ってることと、結果に大きなギャップが出てしまいますね。
もう少し、地に足がついた振る舞いができればいいtのでは思います。
「アファンの森」の実態はそうなんですか?
だとするとニコルさんはどのようなポリシーでそうしているのでしょうかね。
本によると森の再生事業は拡大する計画のようです。

投稿: 風花爺さん | 2016年3月12日 (土) 20時54分

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