« 入笠山 ~雪山入門には最適の山 | トップページ | 今冬最初の赤城は鍋割山へ »

山の画文集『心に映える山』から吹いてくる優しい風

2016年2月7日

過日、鉢岡山で思いがけない束の間のご縁を得た中村 好至恵(よしえ)さんの画文集『心に映える山』を手にしています。
丁度2年前の出版で、早くから知っていたのですが、どういうわけか行きつけの紀伊国屋で見かけないままに過ぎていました。

Img020  帯に「絵筆が奏でる山の音色」というコピーがあります。
キザを承知で書きますが、この画文集を開いた私には確かにモーツァルトの「フルートとハープのための協奏曲」が聴こえてくるのです。

山の画文集といえば古くは加藤泰三の『霧の山稜』や、才人・辻まことの『山で一泊』、五文足のクライマー・芳野満彦や串田孫一など、山書の世界で一定のジャンルを占めるほどたくさん刊行されています。
画は文章以上に個性が際立ちますから、それぞれ独自の作風を競ってくれています。
形ある山は、描かれることの親和性が極めて高いことから、こうなるのも自然な成り行きでしょう

熊谷 榧さん(熊谷守一画伯の次女)はこの分野での女性先駆者でしょうね

Img196      Img021      Img197

私は絵心に恵まれていないため、作品の出来栄えとか、技巧的なことについて語れるものは持ち合わせていません。
自分の感性(もともと乏しいのに、今やすっかり劣化していますが・・・)のままに好き嫌いを区別するしかありません。
その意味では、中村さんの絵は淡い色づかい、自然なフォルムなどから『山の本』の連載が始まったときから私には馴染みやすいものでした。

一括りに山の絵といっても、足立源一郎のように「山」そのものに正面から激しく対峙し描いたものから、新生『岳人』の表紙を飾っている畦地梅太郎のようにデフォルメされた人物が主となる版画など多様です。
中村さんの絵は肩肘張らず、自然体で素直に「山」を描いているように思えます。
山を見る眼差しがとても優しく、しなやかに感じられるのは、山そのものが心からお好きなからなのではないでしょうか。
ページをくくるとその行間に山からの優しい風が吹いてくるような心地よさを感じます。

随所に3・11の被災者、被災地の対する思いやりのフレーズが見られるのも、作者が優しい心根の持ち主であることを窺わせます。

中学生の時のことですがJ・Yという水彩画の上手な同級生がいました。
彼が描く冬枯れの葦原に囲まれた寒々しい沼や、茅葺屋根や田の間を縫って流れる灌漑用水などの絵がこの上なく好ましく、今から思えば稚拙なものだったのでしょうが、私にはその画才が羨ましくてならなかったものです。

画集の初めのほうに小淵沢駅前で描いた甲斐駒の絵があります。
この絵は60年近く前の私にとって忘れがたい回想シーンに連なります。
新宿からの夜行列車を小淵沢で降り、小海線の一番列車を待つ間に駅前で歯磨きしているとき、朝もやの中に甲斐駒がスックとたっているのを見ました。
その凛々しい姿に一目ぼれして、以来今日まで甲斐駒熱愛が続いているのです。

Img020 これが1957年の小淵沢駅前で、背後に甲斐駒があるのですがもやで写っていません。
私の足元がサンダル履きのようでご愛敬ですが、時代を感じるのが向こうへ下っていく駅前商店街の通りがまだ舗装されていないことです。


中村さんの画文に戻りますが、こんなフレーズにも出あいました。
描くことは『省略』の世界であり、不必要なもののない画面は美しい」と。
そうか、上手い文章とはいかに書かないか、という作法と同じなんですね。
私などともすると、たとえばレンブラントの「夜警」などのように細部まで描きこまれた絵にただ”ウーン”と感心してしまうのですが、絵画も文章も余白に語らせる、余白にこそ真髄が潜んでいる、そういうことなのでしょうか。

~どうでもいいことですが、私はこのブログもそうですが書くことも、話すことも「長い」ということで大方の顰蹙を買っています。
私としては「身に覚えがない」のですが・・・

詩人・伊東静雄はセガンティーニの「帰郷」から詩想を得て「曠野の歌」という作品を生みました。

A 私の手元にあるセガンティーニの画集にはその「帰郷」がないので、モティーフが似ているアルプス三部作のうちの「死」を紹介しておきます。
~背景の山はセガンティーニ晩年の大作アルプスの「生」「自然」「死」に共通して描かれている、イタリアとの国境の「ベルニナ山群」です。


    わが死せむ美しき日のために
    連嶺の夢想よ! 汝が白雪を
    消さずあれ   (中略)
    近づく日わが屍骸を曳かむ馬を
    この道標はいざなひ還さむ
    あゝかくてわが永久の帰郷を
    高貴なる汝が白き光見送り (以下 略)

画才ばかりか詩才にも恵まれていない私には、中村さんの絵に献詩の一篇も作れませんが、おりに触れてはこの本を開いて山から吹いてくる優しい風を感じることでしょう。

 

|

« 入笠山 ~雪山入門には最適の山 | トップページ | 今冬最初の赤城は鍋割山へ »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/393418/63747262

この記事へのトラックバック一覧です: 山の画文集『心に映える山』から吹いてくる優しい風:

« 入笠山 ~雪山入門には最適の山 | トップページ | 今冬最初の赤城は鍋割山へ »