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季節のアンソロジー ~六月

2015年6月3日

2年前のあの時、屋久島の西端いなか浜から洋上に浮かぶその島は穏やかな表情をしていた。
その島が噴煙を9千mもの宙高く吹きあげる爆発を起こすことなどその時にはもちろん想像できなかった・
いうまでもなく、口永良部島のことである。

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まだ一年に満たない御嶽山の火山爆発、白馬地方の大地震。
最近では箱根大涌谷などの火山活動の活発化やら、小笠原島での巨大地震で肝を冷やしたばかりのところに、このたびの口永良部島の火山噴火である。
2011・3・11以来、日本列島にただならぬザワザした空気が広がってきている。
日本全体での地殻変動とか火山活動の転換期に入ってきているということなのだろうか?

 

異常ともいえる高温のままで5月は過ぎ、渇水気味の中で雨の季節を迎えた。

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どこかに美しい村はないか
一日の仕事の終わりには一杯の黒麦酒
鍬を立てかけ 籠を置き
男も女も大きなジョッキをかたむける

どこかに美しい街はないか
食べられる実をつけた街路樹が
どこまでも続き すみれいろした夕暮れは
若者のやさしいさざめきで満ち満ちる  ・・・・(以下略)

よく知られている詩なので、説明は不要かもしれないが、茨木のり子さんの「六月」である。

ビールと来れば麦で「麦秋」という素敵な季語が連想される。
麦が実る初夏のころは麦にとっては収穫の秋(とき)になるところから「麦の秋」という言葉を生んだ日本人の語感の豊かさはどうだろう。
小津安二郎監督、原節子主演という黄金コンビによるたくさんの佳品に一つに「麦秋」がある。

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婚期を逸している原節子に対し、バツイチの息子を抱える母親役の杉村春子がいう。
「虫のいいお話なんだけど、あなたのような方に兼吉(息子)の御嫁さんになっていただけたらどんなにいいだろうなんて、そんなことを考えたりしてね・・・」
「ねえ小母さん、あたしみたいな売れ残りでいい?」
「ものは言ってみるもんだね・・・あたしおしゃべりでよかった、よかった・・・」
いわゆる小津節の冴えを見せる何気ない感動シーンの一つである。

ところで、薔薇は5月の花か?それとも6月だろうか
春山行男の『詩人の手帖』によればバラの本場、英国では6月の花とされているのでここで取り上げてみる。

その薔薇からの連想で、今振り返ると冷や汗が出る思いでになるが、学生時代、音楽部に属していて実に低レベルの音楽会を開いたりした。
一学年下のソプラノのなかなか美声の持ち主が、薔薇(そうび)を主題にした日本歌曲の「昼の夢」をことのほか愛唱していて、ある発表会で独唱し、私が伴奏をつけたことがある。
この曲の伴奏はピアノとフルートでするという珍しいものだが、フルートを吹ける者がいなかったため、ピアノだけの伴奏だった。
  
♪ 薔薇(そうび)はなさく かげに伏して
      詩(うた)をまくらに仰ぎみれば
        うたのこころは花に入りて
           笑むよ花びら えむよえむよ
             えみてえみて うたとなるよ  ♪
~作詞:高安月郊外   作曲:梁田 貞

Img004 この写真は多分、その伴奏をした時のものだと思う。
当時はアップライトでもピアノがあれば上々だった。

ピアノを弾くのは好きで、一時期はかなり熱中した。
だが、独学の上に才能が無いことは歴然としていて、いつしか自分の趣味から消えていた。
今、何年も鍵盤に触れていないピアノが片隅で埃をかぶり黙然と鎮座したままでいる。

薔薇の原種の一つ、浜薔薇(ハマナス、ハマナシ)を石川啄木はこう詠んでいる。
  
潮かをる 北の浜辺の 砂山の
           かの浜薔薇よ 今年も咲けるや

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わが山荘では、遠くオホーツク沿岸から持ち帰ったハマナスが、環境の激変にもめげず、今年も香り高く咲いている。

北の花では札幌市の花になっているリラ(ライラック)が開花期を迎えているだろうが、この町だけの「リラ冷え」という素敵な季語が生まれている。
5月下旬から6月上旬の間のリラが香りを放つ時期に冷え込む現象で、本土でいう「花冷え」と同じであろう。
渡邉淳一の『リラ冷えの街』で知られるようになったが、私ももちろんそうである。

今は使われることのない言葉だが、青葉のころに吹くやや強い風を「青嵐」という。
似た言葉の「晴嵐」は晴天でのもやのことであるが・・・
♪陽光みなぎるみそらのもとに 鎬(しのぎ)を削るよ攻守の二軍
 観衆ひとしく固唾(かたづ)を飲みて集める瞳は投手に打者に♪
その2節の後半で「青嵐梢にさやかに吹けど・・・」という歌詞が出てくる。
この大時代な歌詞で綴られている「野球の歌」は高等小学唱歌の収録歌なので、私は学校では学んでいないが、妙によくおぼえている。

そういえば政治の世界でも「青嵐会」という鼻息の荒いメンバーの集まりがあった。
石原慎太郎、中川一郎、浜田幸一などなど。
その名にふさわしい一陣の風を吹かしたとも思えない兵どもも、今は僅かな残影すらも薄い。
そんなむさくるしい話で締めくくるつもりはなかったのに・・・。

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コメント

ライラックの美しい今頃函館に一人旅をした思い出があります。
遠方への一人旅は久しくなかったので、函館美しい風景に旅情をいっそうかき立てられました。

御写真は鮮明ではありませんが、後ろ姿ながらいかにも真面目そうな。。。
希望にあふれていた時代だったことでしょう。

北のハマナスが赤城の山に元気に咲いている、というのも
素晴らしいことですね。

投稿: おキヨ | 2015年6月 3日 (水) 12時37分

おキヨ様
北海道も例外でない高温に見舞われた五月でしたから「リラ冷え」はなかったでしょうね。
むしろ間もなく「YOSAKOIソーラン祭り」が始まるのでますますヒートアップしているでしょう。
昭和30年の前半くらいまでは、あの野暮な制服制帽は学生の服装の基本でした。
どんな学生でも真面目に見せる装置でしたね。
今では応援団員でしかお目にかかれませんね。
それから半世紀以上たち、身にまとうものは学生時代とはマルッキリ違っているのに、心の片隅には学生気分みたいなものがいまだに残っている、自分の青臭さに驚くことがあります。

投稿: 風花爺さん | 2015年6月 3日 (水) 14時52分

風花さん、おはようございます

地震に噴火、竜巻や局地的な集中豪雨など、最近は想像を絶する様な出来事が続いていますね。 日本は元来火山列島、これが普通の姿だと言っている方がいました。東北の震災の余波は今後10年程度は続くとも… しかし、映画、音楽に詩と、風花さんの幅広い知識には驚かされます。

投稿: | 2015年6月 4日 (木) 07時03分

岳様
今、日本の各地で散発的に起きている現象は、たまたまし唸っただけでそれぞれには関連がないのか、それとも関連があって何かの大きな災害が発生する前兆なのか・・・。
確かにこれまでの何十年が異常に平穏であり過ぎた、という専門家(と、呼ばれる方)もいますね。
見えない地球内部のことですから、誰にも分からなくて当然だとは思います。
記憶の断片をかき集めて、それらしくしようとはしていますが、知識が浅薄なので、雑学が生む雑文の見本のごときものですね。

投稿: 風花爺さん | 2015年6月 4日 (木) 14時54分

こんばんは。
私は「リラ冷えの街」の出身です。
札幌の5月6月は花々が咲き競い、実に気持の良い季節でした。梅雨もなく、空気が爽やかで……。
実家の庭に数本あったライラックが懐かしく思い出されます。

風花さまが音楽にも造詣が深くていらっしゃることは、過去の記事からもうかがえることですが、ピアノも学ばれたのですね。
奥田良三の歌う「昼の夢」をYou Tubeで視聴、この伴奏はナカナカ難しそうだと思いました。
「昼の夢」の作曲者 梁田 貞は札幌市の出身、奥田良三も渡邉淳一も、この三人は同じ高校の同窓生です。
つい嬉しくなって余計なことを書いてすみません。

オホーツク沿岸のハマナスが今も山荘に……ロマンチックですね。

投稿: 淡雪 | 2015年6月 6日 (土) 23時26分

淡雪さま
リラ冷えの街、のご出身ですか・・・
本場の方を前にして、半可通を披露してしまい冷や汗が出そうです。
私は1963年、新婚旅行で北海道に行って以来、札幌には仕事や旅で何度も訪れています。
生涯の宝物になるような良い思い出がいつぱいあっていちばん好きな街です。
私の雑文にかかわる三人の方が高校の同級生というのも奇縁ですね。
私はソプラノの中沢 桂さんが歌う「昼の夢」を聴くのですが、旋律とフルートの伴奏が絶妙にからみあい、とても良い曲だと思うのですが、ラジオなどでは滅多に聴けないですね。
その点、今はYou Tubeという手があるんですね。
ただでさえ美味しい札幌のビールが、一段と美味しい季節になりましたね。

投稿: 風花爺さん | 2015年6月 7日 (日) 06時44分

茨木のり子の詩を見つけて、久しく忘れていた私と同じ名前の詩人を本棚の奥から引っ張り出しました。
大好きな詩人で、詩集は4冊持ってますが、最近は開くことも少なくなりました。「見えない配達夫」所蔵ですね。
そういえば、私も実は黒麦酒が大好きなのでした。

投稿: noritan | 2015年6月 9日 (火) 04時23分

noritan様
茨木のりこさんと同じ名前、それでnoritanなのですね。
そういえばノリピーと呼ばれる芸能人もいますね。
枕もとに詩集をおいておき寝る前に必ず一篇の誌を読むこと、そんなことを始めた時期もありましたが、長くは続きませんでした。
誰でもがつかう平凡な言葉が、詩人の手にかかると、まったく違った顔で生き生きと立ち上がってくるので、詩人とは言葉の魔術師かと羨ましく思えます。
黒ビールというとギネスでしたか、ひところよく普通のラガービールとハーフ&ハーフにして飲む人がいましたが、今はみかけないないですね。
黒ビールは今でも健在なのでしょうか?

投稿: 風花爺さん | 2015年6月 9日 (火) 06時27分

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