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映画「春を背負って」~原作は原作、映画は映画

2014年6月15日

話題の(・・・と言っても山好き人間の間だけかも知れないが・・・)「春を背負って」を、怪我の功名で時間ができた、公開2日目の今日観ることができた。

A

空席がやたらに目立つほど観客の入りが悪いのは意外だったが、公開を待ち望んでいたこっちが入れ込み過ぎていて、一般的な受け止め方はこんなものなんだろうか?
映画「点の記 劔岳」の木村大作監督がメガホンをとった2作目であり、前作に続いて再び高峻山岳・立山連峰でのロケーションがどんな絶景をスクリーンに映し出してくれるのか、期待を抱かせるのに十分であった。

もっとも、笹本亮平の原作では奥秩父の仮想の山小屋が物語の舞台になっている。
映画ではこれが立山連峰の大汝山にある茶屋を山小屋に見立てて、ここに舞台を移して撮影されている。


原作の山小屋は奥秩父に特徴的な、陽のさすことのない針葉樹の原生林の中に建つ仮想のものである。
千古の湿った苔が地表を一面に覆う、ウエットで閉鎖的で、瞑想的な環境である。
だから、両者のロケーションは正反対といえる。

A_3 甲武信小屋 ~奥秩父の小屋はこうした原生林の中にある

A_2

私はそのことで、実は映画の出来栄えに危惧を抱いていた。
果たせるかなイントロから30分くらいは”これは違うな”という違和感が拭えずにいて、正直あまり身が入らなかった。

それが、気がついたらいつしか画面に魅入られていた。
舞台装置こそ違え「山小屋を舞台にして、不器用だが善意にあふれた人たちがつくる心温まる物語」という、原作の主題はしっかり押さえた仕上がりになっていたからである。

私は持論的に「映画は原作を超えられれない」という言い方をするが、時には原作から「主題」を借り、原作とは別物の映画に仕立てる手法も映画史上、幾つもの例がある。
これを「換骨奪胎(かんこつだったい)」とは決して言わない。
原作は原作、映画は映画・・・文句あっか、などとは木村監督は言ってはいない。
言っているのは不肖、この私。

山には悪人はいない、というのはもう神話の世界で、現実の山は善意だけで成り立っているわけではない。
それでも人は、小説や映画で、現実にはない美しい虚構の世界で一時のおとぎ話に酔ってみたいのである。

原作でもそうであったが、この作品の実質的な主役である「ゴロさん」が映画でもやはりおいしいところをいただいている儲け役になっている。
豊川悦司がベストのキャスティングであるかどうかは、このごろの俳優についての知識が決定的に不足している私には評価できないが、少なくともミスキャストでないことは確かであるだけの味をだしている。

A_4

観終わって”木村監督、またいい映画を作ってくれましたね。ありがとうございます”と素直に言えるような、快い余韻にひたりながら明るい新宿の表通りを歩いた。

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コメント

風花さん 、こんばんは

そのとおり、原作は原作、映画は映画ですよね!と言いながら、昨日の今日で、原作の方が印象深いのは何故かと考えていました。昔は映画館を出てから、長い間その余韻に浸っていた事を思い出します。

投稿: | 2014年6月15日 (日) 20時03分

岳様
原作と映画から受け取る感動に、質的な違いは確かにあるようで、それはどうしてなんでしょうかね。
映画の方は視覚で捕えられるので、何も考えなくてもすぐに理解できてしまう。
原作の方は読んでから、頭の中で咀嚼するため、理解するまでに時間がかかる。
そのタメの間に想像力が働き、能に深く刻みこまれ、その分長く余韻をひく・・・
なんてすぐに理屈をつけようとする悪いクセがでました。
そんな七面倒くさいこと考えずに、素直に楽しめばいいんですよね。

投稿: 風花爺さん | 2014年6月16日 (月) 05時51分

思えば今の映画館に行きはじめてのは風花さんからお聞きした〔点の記 剣岳〕が最初でした。

あの映画の山の映像は強く印象に残っています。
今回の〔春を背負って〕 出来るだけ早めに映画館に行きたいですね。。。

投稿: おキヨ | 2014年6月16日 (月) 12時58分

おキヨ様
留守にしていましたので、レスポンスが遅れてしまいました。
この映画は山の映画というより、心温まる、ハートフルな作品が、たまたま立山が舞台である、という観かたををした方が良いかもしれません。
もちろん、山好きにはパノラミックに展開する素晴らしい山岳景観が応えられないのですが。
ところで、先日のラジオ放送で、どなたかが”このごろの日本映画は小さな物語ばかりで、大きな物語がなく、このままでは映画の衰退になりかねない”と案じていましたが、確かにその傾向は顕著な気がします。

投稿: 風花爺さん | 2014年6月17日 (火) 17時55分

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