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2008年4月

「そこに山があるから」の間違い

2008年4月7日

70歳で、その当時の「エベレスト登頂最高年齢記録」を達成した<三浦雄一郎さん>が、今度は北のチベット側から再び記録更新に挑みます。

チベット、ネパールでの政治情勢が気がかりですが、われら高齢者のチャンピオンとして成功を心からお祈りします。

(8日の朝刊が、中国政府による「チベットへ」の立ち入り規制のため、再びネパール側
 ~多分、サウス・コル経由で~からチャレンジすることに変更された、と報じています。)

その三浦さんが「JAF」の対談で「Because it is there そこに山があるから」を引用していました。

言うまでも無く、登山史上、もっとも有名な英国の登山家<ジョージ・リー・マロリー>の、これまた人口に膾炙された名言です。

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これまでこの名言の出所についてはあまり明らかになっていませんでした。

マロリーの親友<ダヴィッド・パイ>の「マロリー追想」や、義弟<ディヴィド・ロバートソン>の「ジョージ・マロリー」などの伝記では、マロリーがそう言っていることにも懐疑的なくらいです。

日本でも、高名な登山家から、私らごとき巷の山好きに至るまで、深遠で形而上学的なフレーズとして、便利に使っています。

謎めいていたこの名言の出自について、高名なジャーナリストの<本多勝一>さんが「日本百名山と日本人」の中でキチンと考察されていて、勉強になりました。

それによりますと、
出典は1923年3月18日の「ニューヨーク・タイムズ」紙。

アメリカ講演旅行中のマロリーが記者とのインタビューで「なぜ、あなたはエベレストに登りたかったのか?」と問われ、世紀の名言「Because It is there そこにエベレストがあるからだ」と返した、というものです。

明らかなように<マロリー>は「山」一般を指していたのではなく、「エベレスト」と、特定して答えているのです。

旅の間、各地で何度も同じ質問をされ、ウンザリしていてつい投げやりな調子で言ったのか、それとも哲学的な意味を含めていたのか・・・今となっては謎のままですが・・・。

それがいつのころからか、日本で「そこに山があるから」という誤用がまかり通るようになり、濫用されるようになったのでしょうか?

日本登山界の草分けの一人である<藤木九三>が昭和25年に著した「ヒマラヤ登高史」の中で、意訳として「そこに山があるから」と紹介したのが最初だと、子息の藤木高嶺さんは語っています。(2004年3月6日 朝日新聞 be版)

私が確認した範囲ではその出典は「ヒマラヤ登高史」ではなく、昭和29年に出版されている「エヴェレスト登頂記」でしたが・・・。

もっとも<原 真>さん(高所研究家)のように「名言は、意味の幅が広くて、いくつにも解釈できるから名言なのだ」と「山があるから」を擁護する論(山と渓谷2000・3月号)もありますが・・・。

1924年三度目のエベレスト遠征に参加したマロリーは、若い同僚A・アーヴィンとともに最後の頂上アタックに出かけ、そのまま消息を絶ちました。

それから75年を経た1999年5月、大理石のギリシャ彫刻さながらの遺体が発見されました。

Photo              

エベレスト初登頂が最も似合う登山家、と称されたマロリー。

ヒマラヤの瓦礫の上に、沈黙のまま横たわる、その白い塑像の写真を見たとき、思わず正座してしまいそうな粛然たる気持ちにさせられました。

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